Azure Batchとは?概要やterraformでのデプロイ方法を解説

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大量のデータ処理や計算集約的なタスクを効率的に実行したいが、高性能なハードウェアの初期投資やメンテナンスコストに悩んでいませんか?Azure Batchは、そんな課題を解決するMicrosoftのクラウドサービスです。

Azure Batchを使用することで、必要な時に必要な分だけコンピューティングリソースを利用し、大規模な並列処理を低コストで実現できます。科学技術計算から機械学習、メディア処理まで、様々な分野で活用されており、従来数日かかっていた処理を数時間で完了させることも可能です。

本記事では、Azure Batchの基本概念から具体的な活用場面、料金体系、そしてAzureポータル・CLI・Terraformを使った実際の作成方法まで、初心者から中級者向けに分かりやすく解説します。

Azure Batchとは?

Azure Batchは、大規模な並列処理やバッチ処理をクラウド上で効率的に実行するためのMicrosoftのマネージドサービスです。

複数の仮想マシンを自動的に管理し、計算集約的なワークロードを並列分散処理することで、処理時間の大幅な短縮とコスト最適化を実現します。

従来のオンプレミス環境では、大量のデータ処理や科学技術計算を行う際に、高性能なハードウェアへの初期投資と維持管理コストが課題となっていました。

Azure Batchはこれらの課題を解決し、必要な時に必要な分だけコンピューティングリソースを利用できる柔軟性を提供します。

Azure Batchはどんな場面で使用する?

Azure Batchは、計算集約的で並列処理が可能なワークロードに最適化されており、さまざまな業界や用途で活用されています。

以下の場面で多く利用されています。

  • 科学技術計算・研究開発:分子動力学シミュレーション、創薬研究など
  • 金融・リスク分析:モンテカルロシミュレーション、クレジットスコアリングなど
  • メディア・エンターテインメント:3Dレンダリング、動画エンコーディングなど
  • 機械学習・AI:ハイパーパラメータチューニング、画像認識モデル訓練など
  • ビッグデータ処理・分析:ETLパイプライン、ログ解析など

Azure Batchが適している処理の特徴

Azure Batchを使用する場合は、並列処理が可能であること、タスクを独立した小さな単位に分割できることが重要です。

また、計算集約的でCPUやメモリを大量に消費する処理、断続的に実行される処理で常時リソースが不要な場合に特に効果的です。

一方で、リアルタイム性が要求される処理や、タスク間の密な通信が必要な処理には向いていません。これらの場合は、Azure Container InstancesやAzure Kubernetes Serviceなど、他のサービスの検討が必要です。

Azure Batchの主要機能

Azure Batchは、大規模バッチ処理を効率的に実行するための包括的な機能セットを提供しています。以下に主要機能を詳しく解説します。

大規模並列処理

Azure Batchの最大の特徴は、数千台規模の仮想マシンを統合管理し、膨大なタスクを並列実行できることです。プール内の各VMは独立してタスクを処理するため、単一マシンでは数日から数週間かかる処理を、数時間から数分で完了できます。

自動スケール

Azure Batchの自動スケーリング機能は、リアルタイムでワークロードを監視し、最適なリソース配分を動的に決定します。

キューに蓄積されたタスク数、CPU使用率、実行中タスク数などの指標に基づいて、プール内のVM数を自動調整します。

スケーリング条件は柔軟にカスタマイズ可能で、時間帯による定期的なスケールアップ、特定の閾値を超えた際の緊急スケールアウト、処理完了後の段階的スケールダウンなど、様々なパターンに対応できます。

ジョブ管理

包括的なジョブ管理機能により、複雑なバッチ処理ワークフローを効率的に制御できます。

ジョブ内でのタスク依存関係を定義し、前段のタスク完了を待って次のタスクを実行するパイプライン処理が可能です。

ジョブの実行状況はリアルタイムで監視でき、各タスクの進捗状況、実行時間、リソース使用量、エラー発生状況などを詳細に追跡できます。失敗したタスクは自動的に再実行され、システム障害時の復旧性も確保されています。また、優先度設定により重要なジョブを優先実行することも可能です。

アプリケーションの実行

Azure Batchは、既存のアプリケーションを最小限の変更でクラウド対応させることができます。Windows実行ファイル、Pythonスクリプト、Dockerコンテナ、カスタムアプリケーションなど、幅広い形式のプログラムを実行できます。

アプリケーションパッケージ機能を使用することで、実行に必要なファイルやライブラリを事前にパッケージ化し、各VMに自動配布できます。これにより、環境構築の手間を省き、一貫性のある実行環境を確保できます。

また、コンテナイメージを使用することで、開発環境と本番環境の差異を排除し、より安定した処理を実現できます。

Azure Batchの構成要素

Azure Batchは、階層的な構成要素で組織化されています。これらの要素の関係性を理解することで、効率的なバッチ処理システムを構築できます。

Batchアカウント

Batchアカウントは、すべてのBatch操作の基盤となる管理単位です。認証情報、課金情報、アクセス権限を一元管理し、プール、ジョブ、タスクなどのリソースを統括します。一つのBatchアカウント内で複数のプロジェクトやワークロードを管理でき、組織の要件に応じてアカウントを分離することも可能です。

コンピューティングノード

コンピューティングノードは、実際にタスクを実行する個々の仮想マシンです。WindowsまたはLinux OSを選択でき、CPUのコア数、メモリサイズ、ディスク容量などのスペックを用途に応じて設定できます。専用ノード(他の顧客と共有しない)と低優先度ノード(コスト重視)の2種類があり、要件に応じて使い分けできます。

プール

プールは、同一構成のコンピューティングノードをグループ化した集合体です。プール内のノードは同じOSやアプリケーションがインストールされ、統一された実行環境を提供します。ノード数の自動スケーリング設定、ネットワーク構成、セキュリティ設定などをプール単位で管理します。用途や要件が異なる場合は、複数のプールを作成して使い分けることができます。

ジョブ

ジョブは、関連するタスクをまとめた作業単位です。一つのジョブには複数のタスクを含めることができ、タスク間の実行順序や依存関係を定義できます。ジョブレベルで優先度、実行期限、リソース制約などを設定し、全体的な処理方針を決定します。処理が完了したジョブは履歴として保持され、結果の確認や再実行が可能です。

タスク

タスクは、実際に実行される個々の処理単位です。具体的なコマンドライン、実行ファイル、入力データ、出力先などを定義し、プール内の利用可能なノードで実行されます。タスクは並列実行され、一つのタスクが失敗しても他のタスクの実行には影響しません。各タスクの実行結果、ログ、エラー情報は個別に管理され、デバッグや分析に活用できます。

Azure Batchの利用料金

Azure Batch自体には追加料金はかかりませんが、実行する仮想マシンのリソース利用料が課金対象となります。

料金は次の項目に依存します。

  • 使用するVMのサイズ(CPU数、メモリ容量)
  • 稼働時間
  • ストレージ使用量(入力・出力ファイル)
  • オプション機能(Premiumストレージ、コンテナ利用など)

VMサイズによる料金差

料金は選択するVMサイズによって大きく異なります。汎用のAシリーズから高性能なHシリーズまで、様々な性能レベルのVMが用意されており、ワークロードの要件に応じて最適なサイズを選択できます。

  • 汎用VM(Aシリーズ、Dシリーズ)は、CPU、メモリ、ディスクのバランスが取れており、一般的なバッチ処理に適している
  • メモリ集約型VM(Gシリーズ、Eシリーズ)は大容量メモリが必要な処理に最適化
  • 計算集約型VM(Hシリーズ)は科学技術計算などの高性能計算に最適化

低優先度VMによるコスト削減

低優先度VM(Low Priority VM)を使用することで、最大90%のコスト削減が可能です。これらのVMは、Azureの余剰リソースを活用するため格安で提供されますが、リソース不足時には強制的に回収される可能性があります。

バッチ処理のような中断に対する耐性がある処理では、低優先度VMと専用VMを組み合わせることで、コストパフォーマンスを大幅に向上させることができます。

Azure BacthをAzureポータルでデプロイする方法

1. Batch アカウントを作成する

まず最初に、Azureポータルから Batch アカウント を作成します。Batchアカウントはバッチジョブの管理やノードプールの制御を行うための中核リソースです。

  1. Azureポータルで「Batch アカウント」と検索し、「+ 作成」をクリック。
  2. サブスクリプションと新規または既存のリソースグループを選択。
  3. アカウント名、リージョン(例:Japan East)を入力。
  4. 「プール割り当てモード」は「Batch サービス」を選択(簡易運用向け)。
  5. 必要に応じて認証モード(SharedKey または AAD)を選択。
Screenshot

ストレージアカウントの選択を押します。

すでにBatch用のストレージアカウントを作成している場合は、該当のストレージアカウントを作成します。ストレージアカウント未作成の場合は、次のステップで作成してください。

2. Azure Storage アカウントを作成する

ストレージアカウントの作成画面で以下の項目を入力します。

  • 名前:ストレージアカウント名
  • アカウントの種類:汎用v2が推奨
  • パフォーマンス:既定値のまま
  • レプリケーション:既定値のまま

ストレージアカウントの作成が完了したら、Batch作成の画面に戻り、Batchの作成を実行します。

作成を実行し、リソースが作成されるまで数分待ちます。

作成完了後に、正しく作成されていることを確認しましょう。

3. コンピューティング ノードのプールの作成

プールの作成を行った際、クォータ制限によるエラーが発生する場合があります。

その際は、Batch →設定→クォータ→プールの数を1以上に設定してください。

Screenshot

CLIでの作成方法

Azure CLIを使用することで、コマンドラインから効率的にBatchアカウントを作成できます。

まず、Azure CLIがインストールされていることを確認し、Azureアカウントにログインします。

az login

リソースグループを作成(既存のものを使用する場合はスキップ)

az group create --name myResourceGroup --location japaneast

Batchアカウントを作成

az batch account create \
  --name mybatchaccount \
  --resource-group myResourceGroup \
  --location japaneast

ストレージアカウントを関連付ける場合

az storage account create \
  --name mystorageaccount \
  --resource-group myResourceGroup \
  --location japaneast \
  --sku Standard_LRS

az batch account set \
  --name mybatchaccount \
  --resource-group myResourceGroup \
  --storage-account mystorageaccount

CLIを使用することで、スクリプト化や自動化が容易になり、複数の環境での一貫した設定が可能です。

Terraformでの作成方法

Terraformを使用することで、Infrastructure as Code(IaC)として管理でき、バージョン管理や再現性の高いインフラ構築が実現できます。

terraform {
  required_providers {
    azurerm = {
      source  = "hashicorp/azurerm"
      version = "~>3.0"
    }
  }
}

provider "azurerm" {
  features {}
}

resource "azurerm_resource_group" "batch_rg" {
  name     = "rg-batch-example"
  location = "Japan East"
}

resource "azurerm_storage_account" "batch_storage" {
  name                     = "batchstorageexample"
  resource_group_name      = azurerm_resource_group.batch_rg.name
  location                 = azurerm_resource_group.batch_rg.location
  account_tier             = "Standard"
  account_replication_type = "LRS"
}

resource "azurerm_batch_account" "batch_account" {
  name                 = "batchaccountexample"
  resource_group_name  = azurerm_resource_group.batch_rg.name
  location            = azurerm_resource_group.batch_rg.location
  pool_allocation_mode = "BatchService"
  
  storage_account_id = azurerm_storage_account.batch_storage.id

  tags = {
    Environment = "Development"
    Purpose     = "BatchProcessing"
  }
}

output "batch_account_endpoint" {
  value = azurerm_batch_account.batch_account.account_endpoint
}

output "batch_account_primary_access_key" {
  value     = azurerm_batch_account.batch_account.primary_access_key
  sensitive = true
}

Terraformを使用することで、設定をコードとして管理でき、チーム開発や本番環境への展開において一貫性と再現性を保つことができます。また、不要になった際は terraform destroy で簡単にリソースを削除できます。

まとめ

Azure Batchは、大量のバッチ処理や並列タスクをスケーラブルに実行するための強力なサービスです。クラウドならではの柔軟性と拡張性により、インフラの管理から解放され、コアの開発や分析に集中できます。

コスト効率や実行スピード、柔軟なジョブ構成が求められる場面では、Azure Batchの導入をぜひ検討してみてください。

プロフィール
TanaT

株式会社あいてぃ所属。
クラウドエンジニア(AWS・Azure)
取得資格:AWS SAP、AZ-104、AZ-305
フロントエンド、バックエンド開発もできるフルスタックエンジニアとして学習中。
「AIとクラウドについて学ぶ」サイトの編集長。

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