近年、AI(人工知能)技術は目覚ましい進化を遂げ、ビジネスのあらゆる場面で活用が期待されています。「自社でもAIを導入したいけれど、何から始めればいいかわからない」「AIモデルの開発や運用は難しそう」と感じている方も多いのではないでしょうか。
そんな悩みを解決してくれるのが、Microsoft Azureが提供するAI開発・運用プラットフォームです。その中でも特に注目したいのが、企業のAI導入とイノベーションを加速させるための取り組み「Azure AI Foundry」です。
この記事では、Azure AI Foundryとは何か、その基本的な機能からメリット、具体的なユースケース、利用料金、さらにはデプロイ手順や注意点まで、プロのWebライターが初級エンジニアの方にもわかりやすく徹底解説します。Azure AI Foundryを理解し、AI開発の第一歩を踏み出すためのヒントが満載です。ぜひ最後までご覧ください。
Azure AI Foundryとは?わかりやすく解説

「Azure AI Foundry」とは、Microsoft Azureが提供する、AIモデルの開発からデプロイ、運用までを一貫してサポートする統合的な環境やプログラム、リソース群を指す言葉です。特定の単一サービスを指すというよりは、企業がAzure上でAI、特に生成AIを活用したアプリケーションを迅速かつ効率的に構築・展開できるようにするための、Microsoftによる包括的な支援の枠組み、あるいは特定の支援プログラム名と捉えると理解しやすいでしょう。
Azure AI Foundryは、データサイエンティストやAIエンジニアはもちろん、AI開発の経験が浅いエンジニアや開発者でも、Azureの強力なAI基盤を活用して、革新的なAIソリューションを生み出すことを目的としています。
具体的には、大規模言語モデル(LLM)などの基盤モデルの活用、カスタムAIモデルの開発、責任あるAIの実践などを支援するツール、サービス、ベストプラクティスが含まれます。Azure AI Foundryは、アイデア創出からプロトタイピング、そして本番環境への展開、継続的な改善まで、AIプロジェクトのライフサイクル全体をカバーします。
Microsoftは、Azure AI Foundryを通じて、最新のAI技術へのアクセスを提供し、企業がAIトランスフォーメーションを実現できるよう強力にバックアップしています。複雑化するAI開発のハードルを下げ、より多くの企業がAIの恩恵を受けられるようにすることが、Azure AI Foundryの目指すところと言えるでしょう。
Azure AI Foundryの基本機能
Azure AI Foundryは、特定の単一サービスではなく、Azureの様々なAI関連サービスや機能を組み合わせたエコシステム、あるいはプログラムを指します。そのため、「Azure AI Foundryの機能」とは、実質的にAzure AIプラットフォームが提供する主要な機能群を意味します。ここでは、AI開発のプロセスに沿って、Azure AI Foundryを活用する上で中心となる機能を見ていきましょう。
データ準備と管理
AIモデルの精度は、学習に使うデータの質に大きく左右されます。Azure AI Foundryの基盤となるAzure Machine Learningなどのサービスでは、AI開発に必要なデータを効率的に準備・管理するための機能が豊富に用意されています。
- データの収集と統合: 様々なデータソース(Azure Blob Storage, Azure Data Lake Storage, SQL Databaseなど)からデータを簡単に収集し、統合できます。
- データの準備と前処理: データのクレンジング、変換、特徴量エンジニアリング(モデルが学習しやすいようにデータを加工すること)を、コーディング不要なGUIツールや、Python SDKを通じて行えます。欠損値の補完や異常値の除去なども効率的に実行可能です。
- データセットのバージョン管理: 使用したデータセットをバージョン管理し、どのデータでモデルを学習させたかを正確に追跡できます。これにより、実験の再現性を高められます。
- データのラベリング: 画像認識や自然言語処理のモデル開発に必要な教師データ(正解ラベルが付与されたデータ)を作成するためのラベリングツールも提供されています。
モデルのトレーニングと評価
Azure AI Foundryの中核機能として、効率的なモデルトレーニングと厳密な評価を支援する機能があります。
- 多様なフレームワークのサポート: TensorFlow, PyTorch, scikit-learnなど、主要な機械学習フレームワークをサポートしており、使い慣れたツールで開発を進められます。
- 自動機械学習 (AutoML): コーディングの知識が少なくても、データを用意するだけで最適なモデルとハイパーパラメータ(モデルの挙動を調整する設定値)を自動で見つけ出してくれます。時間のかかる試行錯誤を大幅に削減できます。Azure AI Foundryを活用すれば、AutoMLによる迅速なプロトタイピングが可能です。
- 分散トレーニング: 大規模なデータセットや複雑なモデルのトレーニングを、複数のコンピューティングリソースに分散させて高速化できます。
- 実験の追跡と比較: 行った実験(どのデータ、どのアルゴリズム、どのハイパーパラメータで学習させたか)の結果やメトリクス(精度など)を自動で記録し、簡単に比較・検討できます。これにより、最適なモデルを選定するプロセスが効率化されます。
- 責任あるAIツール: モデルの公平性評価、解釈可能性(モデルがなぜその予測をしたのかを説明する機能)、エラー分析などを支援するツールが統合されており、信頼性の高いAIシステム構築をサポートします。Azure AI Foundryは、この「責任あるAI」の実践を重視しています。
モデルのデプロイと管理 (MLOps)
開発したAIモデルを実際のアプリケーションで利用可能にするためのデプロイと、その後の運用管理もAzure AI Foundryがカバーする重要な領域です。これはMLOps(Machine Learning Operations)と呼ばれます。
- 柔軟なデプロイオプション: トレーニング済みモデルを、リアルタイム推論(即座に予測結果を返す)のためのWebサービスとしてデプロイしたり、バッチ推論(大量のデータをまとめて処理)のためにデプロイしたりできます。デプロイ先も、Azure Kubernetes Service (AKS) や Azure Container Instances (ACI) など、要件に応じて選択可能です。
- モデルのバージョン管理と登録: 開発したモデルを登録し、バージョン管理できます。これにより、どのバージョンのモデルがデプロイされているかを正確に把握し、必要に応じてロールバック(前のバージョンに戻す)することも可能です。
- エンドポイントの監視: デプロイしたモデルのエンドポイント(API)のパフォーマンスやリクエスト数、エラー率などを監視し、安定した運用を支援します。
- 再トレーニングパイプライン: 新しいデータが利用可能になった際や、モデルの性能が低下した場合に、自動でモデルを再トレーニングし、デプロイするパイプラインを構築できます。これにより、モデルの鮮度と精度を維持できます。Azure AI Foundryを活用することで、こうしたMLOpsの実践が容易になります。
生成AIと大規模言語モデル (LLM) の活用
Azure AI Foundryは、特に生成AIやLLMの活用に力を入れています。
- Azure OpenAI Service連携: OpenAIの強力なモデル(GPT-4, ChatGPTなど)を、Azureのセキュリティとコンプライアンス基準の下で利用できます。Azure AI Foundryの枠組みの中で、これらの先進的なモデルを自社のアプリケーションに組み込むことが可能です。
- プロンプトエンジニアリング支援: 効果的なプロンプト(AIへの指示)を作成・管理・評価するためのツールや機能を提供します。
- ファインチューニング: 事前学習済みの基盤モデルを、自社の特定のタスクやデータに合わせて追加学習させる(ファインチューニングする)機能を提供します。
- ベクトルデータベース連携: RAG (Retrieval-Augmented Generation) のような、外部知識を取り込んで回答精度を高める技術に必要なベクトルデータベース(Azure AI Searchなど)との連携を容易にします。
これらの機能群が連携し、Azure AI Foundryとして、AI開発のアイデア想起から実装、運用までの全工程をシームレスにサポートします。
Azure AI Foundryを利用するメリット
Azure AI Foundryを活用することには、多くのメリットがあります。AIプロジェクトを成功に導くための強力な後押しとなるでしょう。
- 開発効率の大幅な向上: Azure AI Foundryが提供する統合開発環境、自動機械学習(AutoML)、事前構築済みモデルなどを活用することで、AIモデルの開発にかかる時間と労力を大幅に削減できます。特に、Azure AI Foundryの枠組みで提供されるAzure OpenAI Serviceなどは、高度なAI機能を迅速にアプリケーションに組み込むことを可能にします。データ準備からモデルトレーニング、デプロイまでのプロセスが効率化され、開発者はより価値の高い作業に集中できます。
- コストの最適化: Azure AI Foundryは、従量課金制が基本であり、使用したコンピューティングリソースやストレージに対してのみ料金が発生します。高価な専用ハードウェアを用意する必要はありません。また、AutoMLや効率的なリソース管理機能により、無駄なコストを削減できます。無料試用枠や特定のプランを活用すれば、スモールスタートも可能です。Azure AI Foundryは、コスト効率の良いAI開発を実現します。
- スケーラビリティと柔軟性: ビジネスの成長や需要の変動に合わせて、コンピューティングリソースを柔軟にスケールアップ・スケールダウンできます。小規模な実験から始めて、必要に応じて大規模なトレーニングや推論処理へとシームレスに移行可能です。Azure AI Foundryは、Azureの強力なインフラ基盤の上に構築されているため、高いスケーラビリティを誇ります。
- 最先端AI技術へのアクセス: MicrosoftはAI研究開発に多額の投資を行っており、Azure AI Foundryを通じて、その成果である最新のAIモデル(特にAzure OpenAI ServiceのGPTモデルなど)やアルゴリズムを容易に利用できます。自社で一から研究開発を行う必要がなく、常に最先端の技術を活用して競争優位性を確保できます。
- 「責任あるAI」の実践支援: AIの倫理性や公平性、透明性はますます重要になっています。Azure AI Foundryには、モデルのバイアス検出、解釈可能性の向上、プライバシー保護などを支援するツールが組み込まれています。これにより、信頼性が高く、社会的に受け入れられるAIシステムの構築をサポートします。Azure AI Foundryは、技術的な側面だけでなく、倫理的な側面からもAI開発を支援します。
- Azureエコシステムとの強力な連携: Azure AI Foundryは、Azureが提供する他のサービス(Azure Data Factory, Azure Synapse Analytics, Azure DevOps, Power BIなど)とシームレスに連携できます。既存のAzure環境やワークフローにAI機能をスムーズに統合でき、データ収集から分析、可視化、アプリケーション開発まで、エンドツーエンドのソリューション構築を加速します。この連携の強さが、Azure AI Foundryの大きな魅力の一つです。
- エンタープライズレベルのセキュリティとコンプライアンス: Azureは、業界最高水準のセキュリティ対策と、多数の国際的なコンプライアンス認証を取得しています。Azure AI Foundryを利用することで、これらの恩恵を受けながら、機密データを安全に取り扱い、規制要件を満たすAIシステムを構築できます。
これらのメリットにより、Azure AI Foundryは、あらゆる規模の企業がAIを活用し、ビジネス価値を創出するための強力なプラットフォームとなっています。
Azure AI Foundryのユースケース
Azure AI Foundryの強力な機能と柔軟性は、様々な業界や分野で革新的なソリューションを生み出す可能性を秘めています。ここでは、具体的なユースケースをいくつかご紹介します。
- 顧客サービスの向上:
- チャットボット/仮想アシスタント: Azure AI Foundry(特にAzure OpenAI Service)を活用し、自然な対話が可能なAIチャットボットを構築。24時間365日、顧客からの問い合わせに対応し、待ち時間の短縮やオペレーターの負担軽減を実現します。
- 感情分析: 顧客からのフィードバック(レビュー、メール、通話記録など)を分析し、感情(肯定的、否定的、中立的)を把握。製品やサービスの改善に役立てます。
- 業務効率の改善:
- ドキュメント処理の自動化: Azure AI FoundryのOCR(光学的文字認識)や自然言語処理技術を利用し、請求書、契約書、報告書などのドキュメントから情報を自動で抽出・分類。手作業によるデータ入力や確認作業を大幅に削減します。
- 需要予測: 過去の販売データや季節変動、イベント情報などを分析し、将来の製品需要を高精度に予測。在庫の最適化や生産計画の精度向上に貢献します。Azure AI Foundryの機械学習モデルが役立ちます。
- 製品・サービスの革新:
- パーソナライズド・レコメンデーション: ECサイトや動画配信サービスなどで、ユーザーの購買履歴や閲覧履歴に基づき、パーソナライズされた商品やコンテンツを推奨。顧客エンゲージメントを高めます。
- 画像認識・分析: 製造業における製品の欠陥検出、医療分野での画像診断支援、小売業での棚状況分析など、画像データから有用な情報を抽出します。Azure AI Foundryを使えば、カスタム画像認識モデルの開発も可能です。
- リスク管理とセキュリティ:
- 不正検知: クレジットカード取引やオンラインバンキングにおける不正利用パターンをリアルタイムで検知し、被害を未然に防ぎます。
- 異常検知: 工場のセンサーデータやネットワークトラフィックなどを監視し、通常とは異なるパターン(異常)を早期に検知。システム障害やセキュリティインシデントの予兆を捉えます。
- コンテンツ生成:
- マーケティングコピーの作成: Azure AI Foundry(Azure OpenAI Service)を活用し、ターゲット顧客に響く広告文やSNS投稿、ブログ記事などを自動生成。コンテンツ制作の効率化と質の向上を図ります。
- コード生成: プログラミングのコードスニペットを生成したり、既存のコードを説明したりすることで、開発者の生産性を向上させます。
これらはAzure AI Foundryの活用例の一部に過ぎません。Azure AI Foundryが提供する多様なツールとサービスを組み合わせることで、業界特有の課題解決や、これまでにない新しい価値創造が期待できます。
Azure AI Foundryの利用料金
Azure AI Foundry自体は特定のサービスではなく、Azure AI関連サービス群やプログラムを指すため、「Azure AI Foundryの利用料金」は、その中で利用する個々のAzureサービスの料金体系に依存します。
中心となるAzure Machine LearningやAzure OpenAI Serviceなどの料金体系を理解することが重要です。
- Azure Machine Learning:
- コンピューティング: モデルのトレーニングや推論に使用する仮想マシン(コンピューティングインスタンス)やコンピューティングクラスターの利用時間に基づいて課金されます。GPUなど高性能なインスタンスほど高価になります。
- ストレージ: データセットやモデルファイルの保存に使用するAzure Blob Storageなどのストレージ容量に基づいて課金されます。
- その他: Azure Container Registryへのモデルイメージの保存、ネットワーク帯域幅なども課金対象となる場合があります。
- 無料枠/特典: Azureには無料アカウントやクレジットが付与される特典があり、小規模な利用や学習目的であれば無料で始められる場合があります。
- Azure OpenAI Service:
- モデル利用: 利用するモデル(GPT-4, GPT-3.5-Turboなど)と、処理するトークン数(テキストの単位)に基づいて課金されます。一般的に、高性能なモデルほどトークンあたりの単価が高くなります。
- ファインチューニング: モデルのファインチューニングを行う場合は、トレーニング時間とホスティング時間に基づいて別途課金されます。
- その他の関連サービス:
- データを保存するAzure Blob StorageやAzure Data Lake Storage、データを処理するAzure Data Factory、モデルをデプロイするAzure Kubernetes Service (AKS) やAzure Container Instances (ACI)、監視のためのAzure Monitorなど、連携して利用するサービスごとにも料金が発生します。
料金体系のポイント:
- 従量課金制: 基本的に、利用した分だけ料金が発生する従量課金制です。初期投資を抑え、スモールスタートが可能です。
- リソースの種類と量: 利用するコンピューティングリソースの種類(CPU/GPU、メモリ)、性能、利用時間、ストレージ容量、処理するデータ量(トークン数など)によって料金が大きく変動します。
- リージョン: 利用するAzureのリージョン(データセンターの場所)によっても料金が異なる場合があります。
コスト管理のヒント:
- 料金計算ツール: Azureには料金計算ツールが用意されており、利用したいサービスやリソース構成を入力することで、事前にコストを見積もることができます。
- コスト分析: Azureポータルにはコスト分析機能があり、どのサービスにどれくらいのコストがかかっているかを詳細に把握できます。
- リソースの最適化: 不要なリソースは停止・削除する、適切なサイズのコンピューティングリソースを選択する、スポットインスタンス(割引価格で利用できるが中断される可能性があるインスタンス)を活用するなど、コスト削減のための工夫が可能です。
- 予算アラート: 設定した予算を超えそうになった場合に通知を受け取るアラート機能を利用できます。
Azure AI Foundry(および関連するAzureサービス)の利用料金は、構成や利用状況によって大きく異なります。必ず最新の公式ドキュメントや料金計算ツールで確認するようにしてください。うまく活用すれば、Azure AI Foundryは非常にコスト効率の高いAI開発基盤となり得ます。
Azure AI Foundryと類似サービスとの違い
AI開発プラットフォームは、Microsoft Azure以外にも主要なクラウドプロバイダーが提供しています。ここでは、Azure AI Foundry(主にAzure Machine LearningやAzure OpenAI Serviceを含むAzure AIプラットフォーム)と、代表的な類似サービスであるAWS SageMaker、Google Cloud Vertex AIとの違いを比較してみましょう。
特徴 | Azure AI Foundry (Azure AI Platform) | AWS SageMaker | Google Cloud Vertex AI |
---|---|---|---|
プロバイダー | Microsoft Azure | Amazon Web Services (AWS) | Google Cloud Platform (GCP) |
統合性 | Azureエコシステム全体との強力な連携 (Microsoft 365, Power Platform等も) | AWSの豊富なサービス群との連携 | Google Cloudのデータ分析、ビッグデータサービスとの強力な連携 (BigQuery等) |
主要な機能 | AutoML, MLOps, 責任あるAIツール, Azure OpenAI Service連携 | SageMaker Studio (統合開発環境), AutoML (Autopilot), MLOps機能が豊富 | AutoML, MLOps, BigQuery ML連携, GoogleのAI技術 (TensorFlow, TPU) |
生成AI/LLM | Azure OpenAI Service (GPT-4等) をエンタープライズ向けに提供 | Amazon Bedrock (複数プロバイダーの基盤モデル選択可), SageMaker JumpStart | Vertex AI Model Garden (Google製およびオープンソースモデル), PaLM 2等 |
使いやすさ | GUIツールも充実、初級者から上級者まで対応。Windows環境との親和性。 | 機能が非常に豊富だが、やや複雑な側面も。ドキュメントは充実。 | 統一されたインターフェース。GCPサービスに慣れていると使いやすい。 |
独自性・強み | Azure OpenAI Serviceによる最先端モデルへの容易なアクセス、責任あるAIへの注力、既存のMicrosoft製品との連携 | 幅広い機能と選択肢、マーケットプレイス、AWSのシェアと実績 | GoogleのAI研究開発力、TensorFlow/TPU、BigQueryとの連携によるデータ活用 |
ターゲット | 既存のAzure/Microsoftユーザー、エンタープライズ、責任あるAIを重視する企業 | AWSをメインで利用している企業、幅広い選択肢を求めるユーザー | GCPをメインで利用している企業、データ分析基盤との連携を重視する企業 |
どのプラットフォームを選ぶべきか?
最終的にどのプラットフォームを選ぶかは、既存のクラウド環境、開発チームのスキルセット、利用したい特定のAIモデルや機能、重視するポイント(コスト、セキュリティ、特定サービスとの連携など)によって異なります。
各プラットフォームとも無料利用枠やトライアルを提供しているため、実際に試してみて、自社のニーズに最も合うものを選ぶことをお勧めします。Azure AI Foundryも、その強力な機能とエコシステム連携により、多くの企業にとって魅力的な選択肢となるでしょう。
Azure AI Foundryのデプロイ手順を解説
Azure AI Foundryという枠組みの中でAIモデルをデプロイする際、中核となるのはAzure Machine Learningサービスです。ここでは、Azure Machine Learningを使ってトレーニング済みのモデルをWebサービスとしてデプロイする基本的な流れを、初級エンジニア向けにわかりやすく解説します。
※Azure AI Foundryはプログラムや概念的な枠組みを指す場合もあるため、ここでは具体的なサービスであるAzure Machine Learningでのデプロイ手順を説明します。
デプロイの全体像:
- 準備: トレーニング済みのモデルを用意します。
- 環境の定義: モデルを実行するためのソフトウェア環境(Pythonのバージョンや必要なライブラリなど)を定義します。
- 推論スクリプトの作成: モデルを読み込み、入力データを受け取って予測結果を返す処理を書いたスクリプト(スコアリングスクリプト)を作成します。
- デプロイ構成の定義: どのくらいの計算リソース(CPUコア数、メモリ量)を割り当てるかを定義します。
- モデルのデプロイ: 上記の設定を使って、モデルをWebサービスとしてAzure上に展開します。
- エンドポイントのテスト: デプロイされたWebサービス(エンドポイント)にリクエストを送り、正しく動作するかを確認します。
主なデプロイ方法:
Azure Machine Learningでのデプロイには、主に以下の方法があります。
Azure Machine Learning Studio (GUI) を利用したデプロイ
コーディングを最小限に抑えたい場合や、視覚的に操作したい場合に便利な方法です。
- AzureポータルからAzure Machine Learning Studioを開く: まず、Azureの管理画面(Azureポータル)にアクセスし、利用するAzure Machine Learningワークスペースを選択して、Studioを起動します。
- モデルの登録: Studioの「モデル」セクションで、トレーニング済みのモデルファイル(例:
model.pkl
)をアップロードまたは既存のトレーニングジョブから登録します。このステップにより、Azure AI Foundryの環境でモデルが管理されます。 - エンドポイントの作成: 「エンドポイント」セクションに移動し、「作成」をクリックします。
- エンドポイントの種類選択: リアルタイム推論を行いたい場合は「リアルタイム エンドポイント」を選択します。
- 基本情報入力: エンドポイント名などを入力します。
- モデルの選択: 先ほど登録したモデルを選択します。
- 環境とスコアリングスクリプト:
- 環境: Azure MLが提供するキュレーション環境(一般的なライブラリが含まれた環境)を選択するか、自分でDockerfileやCondaファイルを使ってカスタム環境を定義します。
- スコアリングスクリプト: モデルを読み込み、
init()
関数(初期化処理)とrun()
関数(推論処理)を定義したPythonスクリプト (score.py
など) をアップロードします。Azure AI Foundryでは、このスクリプトで推論ロジックを実装します。
- デプロイ構成 (コンピューティング):
- コンピューティングの種類: 推論処理を実行するコンピューティングリソースを選択します。小規模なら「Managed online endpoint」の仮想マシンインスタンスが手軽です。大規模なら「Azure Kubernetes Service (AKS)」も選択できます。
- 仮想マシンのサイズ: 必要なCPUコア数やメモリ量を持つインスタンスサイズを選択します。
- スケーリング設定: アクセス数に応じて自動でインスタンス数を増減させる設定も可能です。
- デプロイの実行: 設定内容を確認し、「作成」をクリックするとデプロイが開始されます。完了まで数分かかることがあります。
- テスト: デプロイが完了すると、エンドポイントの詳細画面に「テスト」タブが表示されます。ここでサンプルデータをJSON形式で入力し、モデルが正しく予測結果を返すかを確認できます。また、REST APIのエンドポイントURLと認証キー(またはトークン)も表示されるので、外部のアプリケーションから呼び出す際の情報を取得できます。
Azure Machine Learning SDK (Python) を利用したデプロイ
より柔軟な制御や、開発ワークフローへの統合を行いたい場合は、Python SDKを使用します。Jupyter Notebookや好みのIDEからコードを実行してデプロイできます。
Python
# 必要なライブラリのインポート
from azure.ai.ml import MLClient
from azure.identity import DefaultAzureCredential
from azure.ai.ml.entities import Model, Environment, CodeConfiguration, ManagedOnlineEndpoint, ManagedOnlineDeployment
# Azure ML ワークスペースへの接続
ml_client = MLClient.from_config(credential=DefaultAzureCredential())
# 1. モデルの取得 (登録済みのモデル名とバージョンを指定)
model_name = "my-trained-model"
model_version = "1"
model = ml_client.models.get(name=model_name, version=model_version)
# 2. 環境の定義 (例: Condaファイルから)
env = Environment(
name="my-conda-env",
conda_file="environment.yml", # 必要なライブラリを定義したファイル
image="mcr.microsoft.com/azureml/openmpi4.1.0-ubuntu20.04:latest" # ベースイメージ
)
# 3. スコアリングスクリプトの定義
code_config = CodeConfiguration(
code="./src", # スコアリングスクリプト (score.py) が含まれるフォルダ
scoring_script="score.py"
)
# 4. エンドポイントの作成
endpoint_name = "my-endpoint-sdk"
endpoint = ManagedOnlineEndpoint(
name=endpoint_name,
description="My sample endpoint deployed via SDK in Azure AI Foundry",
auth_mode="key" # 認証方式 (キー認証 or トークン認証)
)
ml_client.online_endpoints.begin_create_or_update(endpoint).result()
# 5. デプロイの作成 (エンドポイントにモデルをデプロイ)
deployment = ManagedOnlineDeployment(
name="blue", # デプロイ名 (blue/greenデプロイなどに使う)
endpoint_name=endpoint_name,
model=model,
environment=env,
code_configuration=code_config,
instance_type="Standard_DS2_v2", # 仮想マシンのサイズ
instance_count=1 # インスタンス数
)
ml_client.online_deployments.begin_create_or_update(deployment).result()
# (オプション) トラフィックの割り当て (複数のデプロイがある場合)
endpoint.traffic = {"blue": 100} # blueデプロイに100%のトラフィックを割り当て
ml_client.online_endpoints.begin_create_or_update(endpoint).result()
print(f"Endpoint {endpoint_name} created and deployment 'blue' is ready.")
# エンドポイントのURIやキーを取得してテスト
endpoint_details = ml_client.online_endpoints.get(name=endpoint_name)
print(f"Endpoint URI: {endpoint_details.scoring_uri}")
print(f"Endpoint Key: {ml_client.online_endpoints.get_keys(name=endpoint_name).primary_key}") # キー認証の場合
注意点:
- 上記は基本的な流れであり、実際のコードは環境や要件によって調整が必要です。
- スコアリングスクリプト (
score.py
) には、モデルの読み込みロジックと推論ロジックを正しく実装する必要があります。 - セキュリティ設定(認証方式、ネットワーク設定など)も重要です。
Azure AI Foundryの枠組みの中でAzure Machine Learningを活用することで、GUIまたはSDKを用いて、比較的容易にAIモデルをデプロイし、アプリケーションから利用可能にすることができます。
Azure AI Foundryを使用する際の注意点
Azure AI Foundry(および関連するAzure AIサービス)は非常に強力なツールですが、効果的かつ安全に利用するためには、いくつかの注意点があります。
- コスト管理の徹底:
- 従量課金制のため、意図せず高額な料金が発生する可能性があります。特に、高性能なGPUインスタンスでの長時間トレーニングや、デプロイしたエンドポイントのインスタンス数が多い場合などは注意が必要です。
- 対策: Azureの料金計算ツールで事前にコストを見積もり、Azure Cost Managementで定期的に利用状況とコストを監視しましょう。不要なリソースはこまめに停止・削除する、予算アラートを設定するなどの対策が有効です。Azure AI Foundryを利用する際は、常にコストを意識することが重要です。
- セキュリティ設定の確認:
- AIモデルや扱うデータには機密情報が含まれる場合があります。ワークスペース、コンピューティングリソース、データストレージ、デプロイされたエンドポイントへのアクセス制御を適切に行う必要があります。
- 対策: Azureのロールベースアクセス制御(RBAC)を活用して、ユーザーやサービスプリンシパルに必要な最小限の権限のみを付与します。ネットワークセキュリティグループ(NSG)やプライベートエンドポイントを利用して、ネットワークアクセスを制限することも検討しましょう。認証キーなどの資格情報は安全に管理してください。Azure AI Foundryのセキュリティ機能を最大限に活用しましょう。
- データプライバシーとコンプライアンス:
- 個人情報や機密データを取り扱う場合は、GDPRやCCPAなどのデータプライバシー規制、業界固有の規制(医療におけるHIPAAなど)を遵守する必要があります。
- 対策: データの匿名化や仮名化を検討し、データの収集・利用目的を明確にします。Azureが提供するコンプライアンス認証やドキュメントを確認し、自社の要件を満たしているかを確認しましょう。Azure AI Foundryを利用する場合も、データガバナンスは不可欠です。
- モデルの品質と公平性の担保:
- AIモデルは、学習データに含まれるバイアスを反映してしまう可能性があります。特定の属性を持つグループに対して不公平な予測を行うなど、意図しない結果を招くことがあります。
- 対策: Azure AI Foundryが提供する責任あるAIツールキットを活用し、モデルの公平性評価や解釈可能性の分析を行いましょう。多様なデータでモデルをトレーニングし、定期的にモデルの性能と公平性を監視することが重要です。
- MLOpsの実践と継続的な監視:
- モデルを一度デプロイして終わりではありません。時間経過とともにデータの傾向が変化し、モデルの精度が低下すること(モデルドリフト)があります。
- 対策: MLOpsの考え方を取り入れ、モデルの再トレーニング、再デプロイのパイプラインを構築しましょう。Azure Monitorなどを活用して、デプロイされたモデルのパフォーマンス(レイテンシ、エラー率など)やデータの変化(データドリフト)を継続的に監視し、必要に応じてモデルを更新する体制を整えることが重要です。Azure AI FoundryはMLOpsの実践を支援します。
- 適切なコンピューティングリソースの選択:
- タスク(トレーニング、推論)やモデルの複雑さ、データ量に応じて適切なコンピューティングリソース(CPU/GPUの種類、メモリ量、インスタンス数)を選択しないと、コストが無駄になったり、処理に時間がかかりすぎたりします。
- 対策: まずは小さめのリソースで試し、必要に応じてスケールアップすることを検討しましょう。Azure Machine Learningのドキュメントやベストプラクティスを参考に、タスクに適したインスタンスタイプを選択します。
これらの注意点を理解し、適切な対策を講じることで、Azure AI Foundryをより安全かつ効果的に活用し、AIプロジェクトを成功に導くことができます。

まとめ
この記事では、Microsoft Azureが提供するAI開発・運用のための包括的な枠組み「Azure AI Foundry」について、その基本概念から機能、メリット、ユースケース、料金、類似サービスとの比較、デプロイ手順、そして利用上の注意点まで、幅広く解説してきました。
Azure AI Foundryは、特定の単一サービスではなく、Azure Machine LearningやAzure OpenAI ServiceをはじめとするAzureの強力なAIサービス群と、それらを活用するためのプログラムやリソースを組み合わせたものです。これにより、企業はAIモデルの開発ライフサイクル全体を効率化し、革新的なAIソリューションを迅速に構築・展開できます。
ぜひ、Azureの無料試用などを活用して、Azure AI Foundryの世界に触れてみてください。
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