ビジネスにおいて「検索」は、単なる情報取得手段にとどまらず、ユーザー体験そのものを左右する重要な要素となっています。Microsoft Azureが提供する「AI Search」は、そんな高度な検索ニーズに応えるための、クラウドベースの検索エンジンです。
Azure AI Searchとは?
Azure AI Search(旧称:Azure Cognitive Search)は、構造化データ・非構造化データの両方を対象に、高度な全文検索や自然言語処理(NLP)を組み込んだ検索体験を提供するサービスです。
企業のWebサイト、社内ドキュメント、製品カタログなど、あらゆるデータソースに対して「Googleのような検索機能」を追加することができます。
Azure AI Searchの特徴と強み
Azure AI Searchの特徴、強みについて解説します。
次のような人・場面に特におすすめです。
対象 | 活用イメージ |
---|---|
開発者 | AI検索・全文検索機能の迅速実装 |
ビジネス担当 | FAQや社内文書検索の強化、RAG用途 |
データサイエンティスト | 自然言語・構造化検索の活用・分析 |
情シス・インフラ管理者 | セキュアかつスケーラブルな検索基盤構築 |
特徴① ノーコードで始められる
Azure AI Searchの魅力はなんといっても、専門的な知識がなくても検索エンジンが構築できる手軽さ。Azureポータルからの操作はすべてGUIベースで、「検索サービスの作成」や「インデックスの追加」などがボタン一つで完了します。
プログラミングに自信がない方でも、迷わずセットアップできるのは大きな強みです。
特徴② インデックス定義が細かく設定できる
「インデックス」は、検索対象データの“設計図”とも言える重要な部分です。Azure AI Searchでは、フィールド名・型・検索対象・フィルター可否などを細かく設定できます。
さらに「ファセット」「並び替え」「アナライザー(自然言語処理用)」の選択までできるので、シンプルなデータから複雑なドキュメント構造まで幅広く対応可能です。
特徴③ 多様なデータソースと連携が可能
Azure AI Searchは、Azure SQLやCosmos DB、Blobストレージ、さらにはSharePointやOneLakeファイルなど、多種多様なデータソースと連携できます。
企業内の既存データ資産をそのまま活かして検索エンジン化できるため、「一から準備」は不要です。すぐに実務での活用が可能になります。
特徴④ コグニティブスキルで自動解析が可能
画像から文字を抽出するOCRや、感情分析、エンティティ抽出などのAIスキルを簡単に追加できます。
これにより、テキストやドキュメントの“意味”まで理解した検索体験が実現します。生成AIとの連携(RAG)にも最適です。
特徴⑤ 即時クエリ確認・デバッグが可能
設定したインデックスがちゃんと機能しているか?
そんな不安も、検索エクスプローラーで即解消。クエリを実行すると、リアルタイムで検索結果がJSON形式で表示され、検索精度やフィールド設定の効果をすぐに確認できます。
特徴⑥ 無料プランから始められるスモールスタート性
「まずは試してみたい」「小規模なプロジェクトで使いたい」そんなニーズにもバッチリ応えるのが、無料プランの存在です。。
50MBまでのデータに対応し、1レプリカ&1パーティションの環境をゼロコストで構築できます。PoC(概念実証)にもピッタリです。
Cognitive SearchからAzure AI Searchへの名称変更で何が変わったのか
2023年10月、Microsoftは「Azure Cognitive Search」を「Azure AI Search」へと名称変更しました。
この変更は単なるリブランディングではなく、サービス自体にも大きなアップデートが加えられています。
なかでも最大のポイントは、生成AI(ChatGPTなど)との連携が標準機能として組み込まれたことです。これにより、自社のドキュメントやナレッジを活用した「社内GPT」の構築が、より現実的かつ手軽になりました。
さらに、ベクトル検索(セマンティック検索)への対応により、従来のキーワードベースの検索だけでなく、「意味」に基づいた類似検索が可能となりました。ユーザーの意図に近い情報を返す、より高度な検索体験を実現しています。
また、Azureポータルのユーザーインターフェースも大きく改善されており、インデックスの作成からデータソースの接続、AIスキルの追加までをGUIで完結できるようになっています。これにより、開発者でなくても扱いやすいサービスへと進化しています。
変更点 | Cognitive Search | Azure AI Search |
---|---|---|
主な用途 | 検索・ファセット | RAG、ChatGPT連携 |
ベクトル検索 | ❌ 非対応 | ✅ 対応済み |
GPT連携 | 手動構成 | 公式サポート |
UI/UX | 基本的な管理画面 | ウィザードで簡単 |
Azure AI Searchは、もはや「検索エンジン」ではなく、「AI活用のための知識取得プラットフォーム」へと進化していると言えるでしょう。
Azure AI Searchの利用料金
Azure AI Searchは、プロジェクトの規模やニーズに応じて選べる複数の料金プランが用意されています。最も手軽な「Free」プランでは50MBまで無料で利用可能で、検証や小規模なPoCに最適です。
プラン名 | 月額料金(税込) | ストレージ容量 | 最大インデックス数 |
---|---|---|---|
Free | ¥0 | 50MB | 3 |
Basic | ¥13,869 | 15GB(最大45GB) | 15 |
Standard S1 | ¥46,302 | 160GB(最大1.9TB) | 50 |
Standard S2 | ¥185,000 | 512GB(最大6TB) | 200 |
Standard S3 | ¥370,417 | 1TB(最大12TB) | 200(HDモードで最大1,000) |
Storage Optimized L1 | ¥400,346 | 2TB(最大24TB) | 10 |
Storage Optimized L2 | ¥800,589 | 4TB(最大48TB) | 10 |
※2025年5月時点
本格的な商用運用には、「Basic」や「Standard(S1〜S3)」「Storage Optimized(L1〜L2)」などのプランがあり、ストレージ容量や同時インデックス数、スケーラビリティが大きく拡張されます。たとえば、Standard S1は月額約¥46,300、Standard S3では約¥370,400で利用可能です(日本円、月額換算)。
さらに、AIによる機能拡張にも対応しており、以下のような追加オプションが用意されています。
- カスタムエンティティの参照スキル:1,000レコードあたり ¥142.856〜(従量課金)
- 画像抽出(OCR):1,000画像あたり ¥142.856〜
- セマンティックランカー:月1,000件まで無料、以降は1,000件あたり ¥142.86
これらのオプションを組み合わせることで、より高度な検索体験や生成AIとの連携も可能になります。
料金はスケールアップに応じて増加しますが、無料から始めて段階的に拡張できる柔軟性が魅力です。用途に合わせて最適なプランを選ぶことが重要です。
料金に関して、最新の情報や詳細についてはAzure公式ページをご確認ください。
Azure AI Searchデプロイ手順と使い方を解説
Azureポータル上でAI Searchをデプロイする流れを、実際の画面を交えて分かりやすく紹介します。
Step 1:Azureポータルで「Search Serviceの作成」ページを開く
まずはAzureポータルにアクセスし、左メニューから「AI Search」を選択。まだサービスが存在しない場合は「Search Service の作成」ボタンが表示されるので、こちらをクリックします

Step 2:基本情報を入力
次に、プロジェクトとインスタンスの詳細を入力します(画像2枚目)。
- サブスクリプション:使用するAzureサブスクリプションを選択
- リソースグループ:既存のグループまたは新規作成
- サービス名:任意の一意な名前(例:aitaisearch01)
- 場所:日本なら「Japan East」など
- 価格レベル:無料枠(Free)で試せるのも魅力。50MBまで利用可能
入力後、「次: スケーリング」をクリックします。

スケーリングの設定画面では、以下を構成します(画像3枚目)。
- 検索ユニット数:無料枠では1固定
- レプリカ:ワークロード分散用(無料枠では1、SLAなし)
- パーティション:データインジェストやクエリ並列処理に対応(こちらも1)
※高可用性を目指す場合はStandardプラン以上で複数レプリカ/パーティションを設定可能です。
「確認して作成」ボタンで最終確認に進みます。

数分でデプロイが完了し、リソースに移動をクリックすると、検索サービスのダッシュボードに遷移します。

Step 4:インデックスの作成画面を開く
サービス作成後、左側メニューから「インデックス」を選択し、「インデックスの追加」をクリックします。
ここで、「インデックスの追加(GUI)」か「JSON経由」かを選べますが、今回はGUIを使って進めます。

Step 5:インデックス名とフィールド定義を入力
インデックス作成画面が開いたら、まず「インデックス名」を入力します(画像2枚目)。今回は aitaisearchindex
としています。
次に、検索対象となるデータの「フィールド(列)」を定義します。最初からid
フィールドが入力されており、これがプライマリキーとなります。
id
フィールド:型はString、取得可能(Retrievable)にチェックが入っています- ここにさらに複数のフィールド(例:title, content, created_at など)を追加していきます
フィールドには以下のような属性を設定できます.
属性 | 説明 |
---|---|
取得可能 | 検索結果に含めるか |
フィルター可能 | フィルター条件として使えるか |
並べ替え可能 | ソート条件として使えるか |
Facetable | 集計(ファセット)に使えるか |
検索可能 | 検索キーワード対象にするか |
アナライザー | 分かち書き・トークン化ルールを指定 |

インデックスを作成すると、「インデックス」一覧に表示されるようになります(画像3枚目)。aitaisearchindex
がリストに追加され、現時点ではまだドキュメント数は0の状態です。

データのインポートから検索実行まで
ここからは、実際のデータを読み込んでインデックスに反映し、検索まで実行する一連の流れを解説します。

「データのインポート」画面では、どのデータソースから情報を取得するかを選びます。ここでは以下の選択肢があります。
- Azure SQL Database
- Azure Cosmos DB
- Azure BLOBストレージ
- SharePoint Online(プレビュー)
- サンプルデータ(今回はこれを選択)
例として「hotels-sample」を選択します。これはホテル情報のサンプルで、実験やデモに最適です。

次のステップでは、AIスキル(OCR・エンティティ抽出など)を追加して、データを強化することも可能です。今回はそのままスキップして構いません。
- AIサービスの接続
- エンリッチメント(構造化)の追加
- ナレッジストアへの保存
必要な場合は、ここでスキルセットを組み込めます。

次は、インデックス構造のカスタマイズを行います。
ここでは、データソースに基づいて生成されるインデックス構造をカスタマイズできます。
「hotels-sample-index」という名前で、自動的にフィールドが一覧化されています。
必要に応じて「Suggest(サジェスト)」などの設定も可能です。

インポート後、Azureポータルの「検索エクスプローラー」から、実際に検索クエリを試すことができます。
- インデックス:
hotels-sample-index
- クエリ例:
b
を含むホテル名や説明文を検索 - 結果:JSON形式で一致データが表示されます

これで、Azure AI Searchを使った一連の流れ(構築 → インデックス作成 → データ読み込み → 検索)が完了しました。RAG(検索拡張生成)との連携にも応用できる仕組みとなっています。
まとめ
Azure AI Searchは、従来のCognitive Searchから大きく進化し、生成AI時代に最適化された“インテリジェント検索基盤”として再登場しました。ChatGPTとの連携やベクトル検索への対応により、これまで以上に意味を理解する検索体験が実現できるようになっています。
さらに、ノーコードで構築できる手軽さや柔軟な料金プランによって、個人から大規模企業まで幅広く対応可能なのも大きな魅力です。PoCや社内ツール、そして本格的なAIアプリケーションの中核としても活躍するAzure AI Search。
もし「社内の情報を活かしたAI検索を実現したい」と考えているなら、今がまさに導入のチャンスです。まずは無料プランから、手軽に試してみてはいかがでしょうか。
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