第1回では、Microsoft FabricがOneLakeという1つの湖を中心にしたSaaS型の統合分析基盤であることを整理しました。今回はいよいよ実践編、「データをどうやってOneLakeに集めるか」です。Fabricには集め方が何通りもあり、それぞれコピーするのか・参照だけなのかで性質が大きく変わります。ここを整理できると、分析基盤の設計がグッと見通しよくなります。

パイプライン、ショートカット、ミラーリング…データを取り込む方法が多すぎて、どれをいつ使うのか分からない。
この記事は、Fabricシリーズの第2回として、「データを集める・整える」技術を次の4つに絞って整理します。
- パイプライン / Dataflow で基本的な取り込みができる
- メダリオン構成(Bronze→Silver→Gold) を設計できる
- ショートカット(外部ストレージをコピーせず参照)を理解している
- ミラーリング(外部DBをニアリアルタイム複製)を理解している
各セクションの最後に「これが説明できればOK」という自己チェックを置いています。ポイントは常に「これはコピーするのか、参照だけなのか」を意識することです。
パイプライン / Dataflow で基本の取り込み
最も基本的な取り込みが、データパイプラインとDataflow Gen2です。どちらもFabricの Data Factory ワークロードが提供する機能で、外部のデータをOneLake(レイクハウスやウェアハウス)にコピーして取り込みます。
| データパイプライン | Dataflow Gen2 | |
|---|---|---|
| 得意なこと | 大量データのコピー・オーケストレーション | GUIでの変換・クレンジング |
| 操作感 | アクティビティを繋ぐフロー図 | Power Query(Excel的なGUI) |
| 向く場面 | 「A地点からB地点へまとめて運ぶ」 | 「運びながら形を整える」 |
いちばん基本の流れは、パイプラインの Copyアクティビティ でソース(DBやファイル)からレイクハウスへデータをコピーするパターンです。200以上のコネクタが用意されており、オンプレのSQL Serverからクラウドのストレージまで幅広く繋げます。
【パイプライン(Copyアクティビティ)の基本形】
外部ソース OneLake
┌──────────┐ ┌──────────────┐
│ SQL DB │ ── Copy ──► │ レイクハウス │
│ CSV/API │ (コピー) │ /Tables │
└──────────┘ └──────────────┘
→ データは「実際にコピーされて」OneLakeに入る
使い分けの目安は、「純粋に運ぶだけならパイプライン、運びながら列の加工やクレンジングもしたいならDataflow Gen2」です。まずはパイプラインのCopyでサンプルデータをレイクハウスに入れてみるのが、Fabric入門の第一歩になります。
【ここが説明できればOK①】
「パイプラインのCopyアクティビティで外部データをレイクハウスにコピーできる。GUIで変換もしたいならDataflow Gen2を使う」——これを説明できれば、1つ目のチェックはクリアです。
メダリオン構成(Bronze→Silver→Gold)を設計する
データを取り込んだら、次は「どう整理して精製するか」です。ここで業界標準になっているのが メダリオンアーキテクチャ です。
メダリオンアーキテクチャとは、データをBronze(生)→Silver(整形)→Gold(集計)の3層に分けて、段階的に品質を高めていく設計パターンです。
メダル(金・銀・銅)にちなんだ名前で、下の層ほど「生」、上の層ほど「磨き上げられた」データになります。料理に例えると、Bronze=市場から届いたままの食材、Silver=洗って切った下ごしらえ済み、Gold=盛り付けまで終わった完成料理です。
Bronze(生データ層)
└─ 取り込んだそのまま。加工なし・欠損もそのまま保持
│ クレンジング・型変換・重複排除
▼
Silver(整形層)
└─ きれいに整えた「使える」データ。結合や名寄せ済み
│ 集計・ビジネスロジック適用
▼
Gold(集計層)
└─ 分析・Power BI用に集計済み。そのままレポートに使える
なぜわざわざ層を分けるのか。ポイントは「Bronzeで生データを必ず残しておく」ことにあります。加工をやり直したくなっても生データが手元にあれば作り直せますし、各層で役割が明確なので、障害時の切り分けやチームでの分担もしやすくなります。FabricではOneLake上のレイクハウスにこの3層を作り、パイプラインやノートブックで層から層へデータを流していきます。

「Bronze=生、Silver=下ごしらえ、Gold=完成品」。この3段階を意識するだけで、データ基盤の設計がグッと整理されるよ!
【ここが説明できればOK②】
「メダリオンはBronze(生)→Silver(整形)→Gold(集計)と段階的にデータを精製する設計で、Bronzeに生データを残すことで作り直しや切り分けがしやすくなる」——これを説明できれば、2つ目のチェックはクリアです。
ショートカット|コピーせず「参照」で取り込む
ここからが、Fabricならではの強力な機能です。まず ショートカット(Shortcut)。パイプラインがデータをコピーしたのに対し、ショートカットはコピーしません。
ショートカットとは、ADLSやAmazon S3、Google Cloud Storageといった外部ストレージのデータを、コピーせず「参照(リンク)」としてOneLakeに取り込む機能です。
まさにWindowsの「ショートカット(アイコンのリンク)」と同じ発想です。実体は別の場所にあるのに、OneLakeの中にあるかのように扱えます。ETL(コピー移送)が不要なので、大容量データをわざわざ移さずに、その場で分析できます。
【ショートカット=ゼロコピーの参照】
外部ストレージ OneLake
┌──────────┐ ┌──────────────┐
│ ADLS │ ◄── 参照 ─── │ ショートカット │
│ S3 / GCS │ (コピー無し) │ (リンクだけ) │
└──────────┘ └──────────────┘
→ 実体は外部のまま。OneLakeには「参照」だけが載る
(S3にあるデータを、移さずFabricで分析できる)
ショートカットが効くのは、「すでにS3やADLSに大量のデータがあり、コピーコストや移送時間を避けたい」場面です。マルチクラウド環境で、AWS S3のデータをFabricから直接触りたいときなどにも威力を発揮します。インテリジェントなキャッシュが働くため、外部への転送(egress)コストも抑えられます。
【ここが説明できればOK③】
「ショートカットは、外部ストレージ(ADLS/S3/GCS)のデータをコピーせず参照としてOneLakeに取り込むゼロコピー機能。ETL不要でその場分析できる」——これを説明できれば、3つ目のチェックはクリアです。
ミラーリング|外部DBをニアリアルタイムで複製
最後は ミラーリング(Mirroring) です。ショートカットが「ストレージのファイルを参照」だったのに対し、ミラーリングは「データベースの中身を、変更まで追いかけて複製し続ける」機能です。
ミラーリングとは、Azure SQL Database・Cosmos DB・Snowflake・Databricksといった外部データベースの変更を、ほぼリアルタイムでOneLakeに複製し続ける機能です。手動のコピーやパイプラインを組まずに、分析用のコピーが常に最新に保たれます。
ポイントは、業務システムのDB(本番)を止めず・重くせず、その変更(追加・更新・削除)だけをOneLake側へ流し込み続ける点です。CDC(変更データキャプチャ)の仕組みで、鏡(ミラー)のようにDBの姿をOneLakeに映し出します。
【ミラーリング=DBのニアリアルタイム複製】
業務DB(本番) OneLake
┌──────────────┐ ┌──────────────┐
│ Azure SQL │ ══ 変更を ══► │ ミラーDB │
│ Cosmos DB │ 常時複製 │ (常に最新) │
│ Snowflake │ └──────────────┘
└──────────────┘
↑本番は止めない → 分析はこの複製側で実行
(本番に負荷をかけない)
この機能が嬉しいのは、「本番DBに分析クエリを投げて重くする」という典型的な悩みを解決してくれる点です。分析はミラー側でやるので、業務システムに影響しません。しかもパイプラインを組む手間もなく、複製されたデータはOneLake上でショートカットや他のワークロードからそのまま使えます。Fabricの Databases ワークロードの中核をなす機能です。
3つの取り込み方法を、「コピーするか・参照か・複製し続けるか」で最後に並べておきます。
| 方法 | 性質 | 向く場面 |
|---|---|---|
| パイプライン | コピー(一括・定期) | まとめて運ぶ・定期バッチ |
| ショートカット | 参照(ゼロコピー) | 外部ストレージを移さず分析 |
| ミラーリング | ニアリアルタイム複製 | 業務DBを止めず常に最新で分析 |
【ここが説明できればOK④】
「ミラーリングは、外部DB(Azure SQL/Cosmos DB/Snowflake等)の変更をニアリアルタイムでOneLakeに複製し続ける機能。本番に負荷をかけず、常に最新のコピーで分析できる」——これを説明できれば、4つ目のチェックはクリアです。
まとめ
今回は「データを集める・整える」技術を整理しました。この4つを、「コピー/参照/複製」の違いとセットで説明できれば完璧です。
- パイプライン / Dataflow:外部データをレイクハウスにコピーして取り込む基本形
- メダリオン:Bronze(生)→Silver(整形)→Gold(集計)で段階的に精製
- ショートカット:外部ストレージをコピーせず参照(ゼロコピー)
- ミラーリング:外部DBをニアリアルタイムで複製(本番に負荷をかけない)
データがOneLakeに集まったら、次は「集めたデータをどう分析・可視化するか」です。第3回では、Fabric最大の目玉のひとつ Direct Lakeモード と、Power BI連携を整理します。「なぜFabricのPower BIは速いのか」の答えがここにあります。

