Azureを触りはじめて仮想マシンやストレージをいくつか作ると、次に必ずぶつかるのが「この構成、これで本当に大丈夫なの?」というモヤモヤです。コストは無駄になっていないか、セキュリティは甘くないか、落ちない作りになっているか——気になるけれど、何を基準に判断すればいいのか分からない。私も学びはじめた頃、まさにここで足踏みしました。
そのモヤモヤに、Azure自身が答えてくれる仕組みが用意されています。それがAzure Advisorです。しかも追加料金なしで、今すぐ使えます。ところがMicrosoft Learnを開くと「パーソナライズされたベストプラクティスの推奨事項を…」といった抽象的な説明が続き、「で、結局どこを見て何をすればいいの?」で止まってしまいがちです。

「Advisorって推奨が出るのは分かったけど、そもそも何を見てる子なの?どこから理解すればいいの?」
この記事では、Azure Advisorを「無料で使えるAzureのかかりつけ医/健康診断」という切り口で、まず正体と全体像を噛み砕いていきます。5つの診断項目(柱)、推奨事項の見方、達成度を測るAdvisorスコアと影響度、CLIでの確認、そして設計指針であるWell-Architected Frameworkとの関係まで。公式の正確さは押さえつつ、初心者がつまずく所を通訳します。読み終わるころには、「Advisorが何者で、画面のどこを見ればいいのか」が地図として頭に入ります。
なお本記事はAzure Advisorシリーズの入り口(ハブ)です。コスト推奨の具体的な活かし方、却下・延期でノイズを減らすコツ、アラート・ダイジェストメール、運用サイクルへの組み込みといった実践的な使いこなしは、続編のAzure Advisor実践編にまとめています。まずは本記事で土台を作り、そのうえで実践編に進む流れがおすすめです。
Azure Advisorとは:無料で受けられるAzureの健康診断
まず正体をはっきりさせておきます。Azure Advisorは、あなたのサブスクリプションにあるリソースの構成と実際の利用状況を分析して、「こうしたほうがいいですよ」という改善案を自動で提示してくれるエンジンです。人間がいちいち全リソースを点検して回らなくても、Azure側が裏で健康診断をやってくれて、その結果票を出してくれるイメージですね。
健康診断のたとえがしっくりくるので、この記事では通します。あなたがふだん飲みすぎ・運動不足でも、健康診断を受ければ「肝機能の数値が高め」「運動を増やしましょう」と客観的な指摘がもらえますよね。Advisorはそれのクラウド版です。「このVM、確保したスペックに対してほとんど使われていませんよ(=もっと安いサイズでいいのでは)」「このストレージ、冗長化されていないので障害時に危ないですよ」といった指摘を、あなたのリソースの実態に合わせて出してくれます。
ここで大事なのが、Advisorは追加料金がかからない点です。Azureを使っているなら、すでに使える状態になっています。特別なエージェントのインストールも不要で、リソースを作れば勝手に分析対象になります。「無料の健康診断を、受けていない人が意外と多い」——これが実にもったいない状況で、この記事はそこを埋めるためのものです。
入り口は簡単で、Azureポータル(portal.azure.com)の検索窓に「Advisor」と打つとAdvisorのブレード(画面)が開きます。左メニューに「Advisor」がピン留めされていることもあります。開くと、ダッシュボードに後述する5つのカテゴリごとの推奨件数が並んでいて、ここがあなたの環境の”健康診断結果票”にあたります。
Advisorの5つの柱(診断カテゴリ)
Advisorの推奨事項は、まったくバラバラに出てくるわけではなく、5つのカテゴリ(柱)に整理されています。健康診断で「血液」「血圧」「視力」と検査項目が分かれているのと同じで、まずこの5つが何を見ているのかを押さえると、出てきた推奨の意味がすっと入ってきます。
コスト(Cost)
お金の無駄をなくす柱です。「使われていないVMを止めたら」「サイズが大きすぎるVMを一段小さくしたら」「継続して使うなら予約購入で安くなりますよ」といった、請求額を下げるための推奨が出ます。多くの人がいちばん気にする柱で、節約見込み額つきで提示されるのが強力です。この柱を実際にどう活かすかは、実践編で厚めに扱います。
セキュリティ(Security)
環境を攻撃から守る柱です。「このポートがインターネットに開きっぱなしです」「暗号化が有効になっていません」といった穴を指摘してくれます。中身はMicrosoft Defender for Cloudの分析と連動していて、Advisor上でもセキュリティの推奨として顔を出します。
信頼性(Reliability)
「落ちない・データを失わない」ための柱です。「このリソースは冗長化されていないので、障害時に停止します」「バックアップが有効になっていません」といった、可用性・耐障害性に関わる推奨が出ます。かつて「高可用性」というカテゴリ名だったものが、現在は信頼性という呼び名で整理されています。
オペレーショナルエクセレンス(Operational Excellence)
運用のやりやすさ・仕組みの健全さに関する柱です。名前が長くて身構えますが、要は「ちゃんと管理された状態か」を見る項目です。「タグが付いていなくて管理がしづらい」「非推奨(廃止予定)のリソースを使っている」「ベストプラクティスに沿っていない設定がある」といった、運用の土台に関わる指摘が出ます。
パフォーマンス(Performance)
速度・応答性を上げる柱です。「このデータベース、負荷に対してスペックが足りていません(スケールアップを検討)」「インデックスを追加すると速くなります」といった、遅さの原因と改善案を出してくれます。コストが「使いすぎを削る」方向なら、パフォーマンスは「足りない所を足す」方向で、ちょうど裏表の関係になっています。

「コスト」「セキュリティ」「信頼性」「運用」「性能」の5項目で健康診断——この5つの名前だけ先に頭に入れておくと、画面を開いたとき迷いません。
推奨事項の見方と、対応の基本
カテゴリの意味が分かったら、次は実物です。Advisorのブレードを開くと、まず5つのカテゴリのタイルが並んだダッシュボードが出ます。気になるカテゴリ(まずはコストがおすすめ)をクリックすると、そのカテゴリの推奨事項が一覧で表示されます。
一覧には、推奨のタイトル(例:「未使用の仮想マシンを削除して費用を最適化する」)、後述する影響度、対象となるリソース数、そしてコスト系なら節約見込み額が並びます。ここで大切なのは、健康診断の結果票と同じで、全部を一気に対応する必要はないということ。上から順に、影響度の高いもの・効果の大きいものから手を付けるのが基本です。
個々の推奨を対応するときの基本の流れは、次のとおりです。
- 一覧で気になる推奨をクリックして詳細を開く
- 詳細画面で「なぜこの推奨が出たのか(理由)」と「対象リソースはどれか」を確認する
- 対象リソースを選び、画面に用意された対応アクション(サイズ変更・削除・設定変更など)を実行する
ここでAzureのAdvisorが親切なのは、多くの推奨でその場から修正操作に飛べることです。たとえば「VMのサイズを下げましょう」という推奨なら、詳細から対象VMのサイズ変更画面へ直接進めます。「指摘だけして放置」ではなく、指摘から治療までを一本の導線で用意してくれている——ここがAdvisorの使い勝手のいいところです。
一点だけ初心者が誤解しやすいのが、推奨に従うかどうかは自分の判断だという点です。Advisorは「一般論としてこうしたほうがいい」を出しますが、あなたの事情(あえて検証用に大きめのVMを置いている、など)までは知りません。だから健康診断と同じで、結果を見て「これは対応」「これは事情があるからそのまま」と自分で仕分けする姿勢が要ります。次に見る影響度とスコアは、その仕分けの手がかりになります。
なお、「今は対応しない」と決めた推奨を一覧から消す却下(Dismiss)や、期間を決めて一時的に非表示にする延期(Postpone)といった、一覧をすっきり保つための整理術もあります。ここは運用に効いてくる話なので、実践編でまとめて扱います。
Advisorスコアと影響度:どこから手を付けるかの指針
推奨が何十件も出ると、「多すぎて心が折れる」という状態になりがちです。それを防ぐために、Advisorには優先順位を付けるための2つの物差しが用意されています。個々の推奨に付く「影響度」と、環境全体の達成度を示す「Advisorスコア」です。
影響度(高・中・低)
それぞれの推奨には影響度が「高・中・低」で付いています。これは「対応したときのインパクト・放置したときのリスクの大きさ」の目安です。健康診断でいえば「要精密検査(赤)」「経過観察(黄)」「異常なし寄り(緑)」のような三段階ですね。
使い方はシンプルで、影響度「高」から順に潰していくのが王道です。時間もやる気も有限なので、低いものを大量に片付けるより、高いものを数件対応するほうが環境は健康になります。一覧は影響度で並べ替えられるので、まず「高」で絞り込むクセをつけると、迷子になりません。
Advisorスコア
もう一つがAdvisorスコアです。これはベストプラクティスにどれだけ沿えているかを0〜100%で表した達成度の点数で、Advisorブレードの「Advisor score」から見られます。全体スコアに加えて、コスト・セキュリティ・信頼性・運用・パフォーマンスのカテゴリごとのスコアも出ます。
健康診断の総合判定(A判定・B判定…)にあたるのがこのスコアだと思ってください。ありがたいのは、影響度の高い推奨を対応するほどスコアが上がる作りになっている点です。つまり「スコアを上げる」という一つの目標に向かって手を動かせば、自然と重要な所から片付いていく。数字で見えるとモチベーションも続きますし、月ごとにスコアの推移を追えば「先月より健康になったか」が一目で分かります。
実務では、このスコアをチームの目標値にすることもあります。「セキュリティスコアを80%以上に保つ」といった基準を決めておくと、レビューのときに議論がぶれません。まずは自分の環境の現在地を知る、という意味でも一度スコアを開いておくとよいです。より踏み込んだ運用への組み込み方は実践編で扱います。
Azure CLIで推奨を確認する
ここまではポータル(画面)での操作でしたが、AdvisorはAzure CLIから推奨を取り出すこともできます。定期的にチェックしたい、結果を他のツールに流したい、というときに画面をポチポチするより速いので、覚えておくと便利です。
基本は次のコマンドで、現在の推奨事項の一覧を取得できます。
az advisor recommendation list --output table
これだけで、推奨のカテゴリ・影響度・対象リソースなどが表形式で並びます。--output table は結果を見やすい表にするオプションで、外すとJSONで返ります。カテゴリで絞りたいときは --category を付けます。
az advisor recommendation list --category Cost --output table
各オプションを補足しておきます。
--category:カテゴリで絞り込み。指定できるのはCost/Security/Reliability/OperationalExcellence/Performance。柱の英語名がそのまま値になります。--output:出力形式。table(見やすい表)/json(既定・機械処理向け)/tsv(他コマンドへ渡す用)。--ids:特定の推奨IDだけを見たいときに指定します。
ちなみに、CLIから推奨を却下したり無効化したりする操作は az advisor recommendation disable といったコマンドで用意されていますが、初学のうちはまず一覧取得(list)だけ使えれば十分です。「画面を開かなくてもコマンド一発で健康診断の結果票が取れる」——この感覚を持っておくと、あとで自動化に踏み込むときの入り口になります。なお前提として、Azure CLIにログイン済み(az login)で、対象サブスクリプションが選択されている必要があります。
Well-Architected Frameworkとの関係
学習を進めるとWell-Architected Framework(WAF)という言葉に必ず出会います。名前がいかつくて身構えますが、Advisorとセットで理解すると腹落ちします。WAFは、Microsoftがまとめた「クラウドをちゃんと設計するための考え方の指針(ベストプラクティス集)」です。そしてWAFも、コスト最適化・セキュリティ・信頼性・オペレーショナルエクセレンス・パフォーマンス効率という5つの柱で整理されています。
もうお気づきかもしれません。Advisorの5カテゴリは、このWAFの5つの柱にそのまま対応しているのです。つまり、WAFが「クラウドはこう設計すべき」という理想・お手本を示し、Advisorがそのお手本に照らして「あなたの実際の環境はここがズレていますよ」と採点・指摘してくれる。教科書がWAF、答え合わせをしてくれる先生がAdvisor、という関係です。
この対応関係が分かると、Advisorの推奨が単なる小言ではなく「WAFのベストプラクティスに近づくための具体的な一手」に見えてきます。理想論のWAFを読んで終わりにせず、Advisorで自分の環境を採点しながら少しずつ理想に寄せていく——この往復こそが、設計改善の起点であり、設計力を実地で鍛える近道です。
まとめ
この記事では、Azure Advisorを「無料で使えるAzureの健康診断/かかりつけ医」というたとえで、まず正体と全体像を押さえてきました。要点を振り返ります。
- Advisorとは:リソースの構成と利用状況を分析し、改善推奨を自動提示する無料のエンジン。ポータルで「Advisor」を検索すれば開ける。
- 5つの柱:コスト/セキュリティ/信頼性/オペレーショナルエクセレンス/パフォーマンス。健康診断の検査項目にあたる。
- 推奨の見方:ダッシュボード→カテゴリ一覧→詳細→対応の流れ。全部やる必要はなく、影響度「高」から。
- 優先順位:各推奨の影響度(高・中・低)と、環境全体の達成度を示すAdvisorスコアを物差しにする。
- CLI:
az advisor recommendation listで推奨を取得。--categoryで柱ごとに絞れる。 - WAFとの関係:5カテゴリはWell-Architected Frameworkの5つの柱に対応。WAFが教科書、Advisorが答え合わせで、設計改善の起点になる。
ここまで押さえれば、Advisorが「何者で、画面のどこを見ればいいのか」という地図が頭に入ったはずです。まずは今日、自分のサブスクリプションでAdvisorを開いて、スコアと5カテゴリの件数を眺めてみてください。それが最初の健康診断です。

全体像がつかめたら、いよいよ実践です。「で、コストは具体的にどう削るの?」「通知はどう設定するの?」の答えは、次の実践編に用意しています。
さらに深く学ぶ:Azure Advisor 実践シリーズ
本記事は概念中心のハブです。ここで作った土台をもとに、実際に手を動かして環境を健康にしていく実践編へ進みましょう。
- Azure Advisor実践編:コスト削減と運用への組み込み(右サイジング・予約でコストを削る具体策、却下・延期でノイズを減らすコツ、アラート/ダイジェストメール、月イチの定期健診として運用に組み込むサイクルまで)
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